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いつも来てくれるお客さんのバイクの給油口は特殊な工具で開けなければ開かなかった。
要するに壊れていたのである。
一昔前、勤めていた工務店が廃業したため、生活苦から逃れようとガソリンスタンドでアルバイトをしていた。
強面の現場のあんちゃんから、いきなり「いらっしゃいませ~」と言う接客業に戸惑いを感じていたが、生活苦のために父ちゃんは体を張る。
当時、友人たちがオレのそんな姿を面白がって見学に来てた事もあった。
最初は「いらっしゃいませ~」が言えずに困ったが、人間やろうと思えば何だって出来る。
梅雨時期の基礎工事で、掘った穴の中に合羽を着て入り込んで、汗と雨とドロにまみれる事を思えば、「いらっしゃいませ」くらい言えるわい!半分は開き直りの境地であった。
幸いな事に車いじりは得意な方だったので、面白かったが、何分人相と愛想と性格が悪いのが災いして接客に慣れるには随分と時間がかかった。
ある時、スタンドの隣にあった会社の人が来て、ガソリンを注ごうとしたところ、給油口が開かない。
色々と工夫をしてやっと開いた。
それ以来、その人はガソリンを注ぎに来るとオレをご指名してくれるようになった。
その人が来ると、工具を持って駆け付けるので大変喜ばれた。
おそらく、その頃に接客業の楽しさや面白さを経験したと思う。
そのお客さんのお陰でオレは接客業の楽しさを教えてもらう事が出来た。
頼まれる前に一歩進んで、その人が求める事をすると喜んでもらえる。
そして気持ちよく利用してもらって笑顔で送り出す。するとまたガソリンがなくなればオレのところに来てくれる。
それほどの長い経験はないが、この辺りが接客業の醍醐味ではないかと思える。
つくずくオレはお客さんに育てて貰えたと思うから、職場が無くなったところで悲観しないのではないかな・・
さて、スーパーでアルバイトをしている銀子。先日、レジで大声を出して怒鳴っているおっさんが居たらしい。
何でもレジに持っていった商品が見当たらないと言って難癖をつけ出したらしい。
そして怒鳴りつけるのである。まだ「研修生」の名札を付けた女の子に対して。
こんな奴おるよな・・・余りにもしつこいので、すぐに店の責任者が出てきて事務所に連れていった。
そして、事務所のドアを閉めるなり「おぅ!コラッ!調子乗って難癖つけとったら威力業務妨害で告訴したるぞ!!」「ブタ箱行って泊まってこい!」・・・と言ったのかどうか知らないが、言うたったら面白いのに・・・と思ってしまう。
まっ、こんなおっさんのことはどおでもええとして、気の毒なのはレジの子。
研修生で始めて間もないのに、嫌な客にあたり、仕事が嫌になってないかな・・・
実際、嫌な客も沢山居ると思うけど、そんな中にも仕事の楽しみを見つけてくれる事を祈る。
ところで、工務店が廃業したので仕方なしに始めたガソリンスタンドのアルバイト。
隣にあった会社は倒産し、ガソリン屋さんもなくなった。
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